日本のパイオニアが考えるグランピングリゾートとは?

COLUMN

星のや富士」を創造した「星野リゾート」星野佳路代表。「ビッグウィーク」ブランドで新しいリゾートスタイルを創造する「東急ビッグウィークステーション」金山明煥社長。二人のパイオニアがグランピングの未来を語る

自然と共生するのがグランピング。

ーお二人にとってグランピングとの最初の出会いを教えて頂けますが?
星野:私は1986年に、アメリカ・ロッキー山脈にあるスモーキーナショナルパークの「ルコンテマウンテンロッジ」を訪ねたのですが、15時のチェックインなのに12時に来いという。不思議だと思いながらでかけると、駐車場に車を停めて、そこから3時間歩いてかかるとのこと。そこで山の中を歩いていると、ラマが隊列を組んで物資を運んでいる。途中雨が降り始めて、行けども行けどもたどりつかない。ようやくキャビンの灯りが見えて、中に入るとそこは暖炉で薪が燃えていて、立派なリビングのある別世界。私のグランピング体験の原点ですね。
金山:僕の場合はハワイ島ですね。80年代に東急電鉄がハワイ島西側のコハラコーストに「マウナラニベイホテル&バンガローズ」を中心としたリゾートを開発したのですが、その中にバンガローという離れの邸宅型スイートがあって、目の前にビチや自分だけのプールが広がるラグジュアリー空間なんです。当時はバトラーも常駐していました。ここではダイナミックな自然を楽しめる。これこそグランピングですね。
星野:いいですね。
金山:でも、ハワイのような特別な場所だけではなく、都会の中でも明治神宮のようにダイナミックな自然を体験できる場所があって、マインドをリセットできる。それもまた、グランピングだと僕は思っていますよ。
星野:おっしゃる通りですね。自然を愛し、それを楽しみたいという人々がとても増えています。私は1995年にカナダで開かれたエコツーリズムの会議に参加して感銘を受け、軽井沢で森を守る「ピッキオ」という活動を始めました。そこから自然と共生する活動をする人との世界的なネットワークができたのですが、そこで7年ほど前にグランピングという言葉を知りました。グランピングは自然を慈しみ、楽しむスタイルですね。
金山:日本では単に“贅沢なキャンプ”として、今までのキャンプの一形態として捉えられていますよね。
星野:それはグランピングのひとつの楽しみであって、すべてではありませんね。私はキャンプも楽しみますが、どんなにテントが立派でも、やはり雨が降ればキャンプは辛いものです。それを楽しめない人も当然いる。グランピングは、楽しめない人はキャビンでゆっくり過ごせばいいよ、と別の選択肢を提案してくれるものなのです。
金山:確かに、私たち都市生活者にとって、自然は最高の贅沢であり、非日常の楽しみですが、天候や気候のリスクもある。それを気にせず楽しめることも大切ですね。

グランピングはラグジュアリー。

ーお二人にとってのグランピングを一言でいえば?
星野:私はグランピングはラグジュアリーでなくてはならない、という考え方です。「星のや富士」は7年前に構想が生まれ、5年前に企画が始まったのですが、リゾート・デザインを依頼したい女性建築家がまったくキャンプ等は大の苦手な人でした。虫が嫌い、トイレが汚そうで嫌だというのです。そこで、世界中のグランピング・リゾートに連れて行きました。最初は嫌がっていましたが、本物のグランピングを知ることで、それがラグジュアリーな世界であることを知ったんですね。4年前にデザインを描き始めてくれました。当然、ラグジュアリーなイメージで。彼女のような人々が大勢いると思います。僕はそんな人たちに「星のや富士」に来てほしい。だからラグジュアリーにこだわります。
金山:僕はリゾート本来のデスティネーションを楽しむことだと思います。それは自然というデスティネーションを体験すること。私たちが運営する施設では、今までは寛ぎや快適さに重きを置いていましたが、これからは体験できるハードやソフトも拡充していきます。

今後も進化を繰り返すのがグランピングリゾート

ー星野さんにお伺いします。「星のや富士」が目指すグランピングとは?
星野:「星のや」は常に既存の「星のや」を超える施設であることを目指しています。そこで、「星のや富士」はどこにもない日本初のグランピング・リゾートを創ろうと考えました。そうなると社内は大騒ぎです(笑)。何しろ前例がありませんから、企画がまとまりません。私の企画も9割は没にされました。それでも、自然を楽しむこと、ラグジュアリーであることを唯一絶対のテーマに企画を進めました。そのため、これがグランピングだ!とは言い切れません。さまざまなグランピングのカタチがここにはあって、今後も進化を繰り返していくのだと思います。ただ唯一私がこだわったのが「火」です。グランピングの象徴的な楽しみが焚き火だと思うのです。だから、クラウドテラスという場所には「焚き火バー」を造りました。また、キャビン(客室)にはエタノールストーブで炎を灯せる設備を設置して、2室だけは薪ストーブをテラスに設置しました。これだけは譲りませんでした。
金山さんにお伺いします。新しいグランピング施設等はご計画ですか?
金山:新しい施設を建てるよりも、既存の施設にどうグランピングを取り入れていくか?が課題だと考えています。例えば伊豆半島にはグランピングを楽しめるような当社や東急グループのホテルがあります。そしてグローバルにも評価されるような手つかずの自然がまだまだ残っています。そんな自然と快適なホテルをつなぐ方法を考えていくことも大切でしょう。また、軽井沢も同様に数多くの施設があると共に、ここはテラスなどの屋外でクオリティーの高い料理を楽しむという文化があります。この2つのリゾート地をグランピング・リゾートとしてさらに活性化できれば、海外のゲスト等にも一層アピール可能です。「グランピング」というキーワードはインターナショナルにも訴求できるものです。

日本の冬をいかにグランピングするか?

ー日本では今後、グランピングというスタイルは根付くのでしょうか?
星野:間違いなく根付いていくと思います。ただしその際の課題は秋冬をどう楽しんでもらうか、ですね。日本では寒くなる秋冬の季節もアウトライフを楽しむという習慣がありません。しかし一年を通してグランピングというスタイルが楽しめなければ意味がないし、我々の施設も冬にゲストが来ないという状況は作ってはならない。
金山:その通りですね。しかし実は冬のリゾートの良さもある。何よりも空気が澄んでいて、人が少なく自然をゆったりと堪能できる。料理もジビエなどおいしい食材が溢れる。僕は冬の軽井沢は大好きですよ。
星野:そうなんです。「星のや富士」でも、どんどん冬の楽しみを提案していきます。
金山:それと、日本の場合は北海道から沖縄まで、風土が多様ですから、その風土に根ざしたグランピング・リゾートを提案していくことも大切ですね。
星野:自然も多様性に満ちているし、食材もそれぞれの土地に素晴らしい里山の味覚がある。それらを活かした日本独自のグランピング・スタイルが芽吹き育っていく可能性がありますね。金山それと日本には温泉という最高の自然の恵みがあります。温泉文化は非常に成熟していますが、グランピングというキーワードで新しい発展を遂げる可能性がありますね。
ー最後にお二人にお伺いします。今経験したいグランピングなシーンを教えてください。
金山:ヨーロッパのようにビーチサイドなどでゆったり読書するシーンが浮かびます。雨が降ったらパラソルの下でゆったりと本を読む。iPadで読んでもいい。自然に身を委ねつつ快適に過ごす。デジタルな現代だからこそ楽しめる。そんなグランピングシーンが今後増えていくのではないでしょうか?
星野:私はやっぱり火を眺めているシンかな(笑)。先週までずっと冬のニュージーランドに居て宿泊先の暖炉を眺めていましたよ。これって、縄文人から続くDNAの仕業じゃないですかね?お二人ともお忙しい中ありがとうございました。グランピングのパイオニアにお話しを伺って、その本質を知ることができました。

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